2025/11/15

「スク水メイドぱらだいす」を読んで


 7冊目。2007年7月刊行。通し番号は73。
 これまで4、5ヶ月おきに新作を発表していた神楽陽子だったが、ここで前作から10ヶ月ほどの期間が空いた。もっともこの間、沈黙していたわけでは決してなく、ノベルスのほうで精力的に作品を出しているので、単に出版社の事情だろう。
 あらすじはこちら。

 スクール水着にエプロン姿のメイド!? 突如悠が運ばれた屋敷には、ツンデレ幼馴染み、元気いっぱい同級生、金髪巨乳留学生に許婚と名乗るクールな女性までが現れて大混乱! 悠へのご奉仕を巡って誘惑だらけの夏休みハーレムが始まる!!

 7作目にして本当に王道の、ザ・ライトノベル系エロ小説と言っていい設定である。平凡な少年が実は大富豪の跡取りで、連れてこられたお屋敷には主人公への奉仕を競い合う美少女メイドたちがいる。もしもライトノベル系エロ小説創作のカルチャースクールがあれば、生徒の半数以上がこの設定で書くのではないか、というくらい安全牌の、間違いのない設定である。
 こんなにも安易な、使い古された設定でいいのか。
 そんな小説が果たしておもしろいのか。
 おもしろいのである。なんの問題もないのである。
 前作「ウエイトレスパニック」で、絶対に経営収支が成り立ってないし、衛生面や、女の子たちの勤務体系にも大いに問題がありそうな点が気になって、エロに安らかに集中できない、ということを書いた。こっちはエロに集中したいんだから、凝った設定にする必要はなくて、私立学園で好きな制服を着せて野放図にエロいことしていればそれでいいんだよ、と。それを書いていたとき、次作のこれのことを意識していたわけではないが、期せずして今作はその意見に対するアンサーになっている。私立学園でこそないが、大富豪のお屋敷なので、さらに純度が高いとも言える。女の子たちはみな、スクール水着にエプロン、頭にはホワイトブリムを乗せ、そしてロンググローブとタイツという恰好で、主人公への奉仕を行なう。なんだその恰好は、と思われるかもしれないが、別にこの格好で街に出るわけではない。あくまで職場での作業服というスタンスであり、であれば誰も文句を言うことはできない。なるほど大富豪のお屋敷ではそんなこともあるだろうと、納得するほかない。この説得力の高さは、作者のご都合主義などではない。それはわれわれ読者にとっての都合だ。この豪腕による強制的とも言える納得がなければ、われわれの気はすぐに散ってしまう。クォーク同士を結びつけ、陽子や中性子を作り、それらをさらに結びつけて原子核を形作るがごとく、強い力によってのみ、われわれはエロの世界に浸ることが可能となる。
 併せてこの小説では、そのさらに先、主人公が複数の女の子と関係を持つことについても、なぜならここは大富豪のお屋敷なのだからして、という最強理論によって肯定される。
 お屋敷内のプールにて、メイドたちの濡れた水着姿を見て、サマーベッドに寝転ぶ主人公の股間は隆起し、それを見つけたメイドたちは下半身に群がり、すかさず主人公の水着を脱がそうとする。それを目にし、メイドの中で唯一庶民の子であるツンデレ幼馴染は戸惑う。

「ああ、あんたたち、そっ、そんな……真昼間から、こんなところで」
 彼女の言わんとすることはよくわかる。しかし他のメイドたちは、質問の意味がわからないといった様子で首を傾げた。
「他には誰モいないから大丈夫デスよ?」
「そっ、それだけじゃなくて! みんな……さ、三人も一緒にって……」
 代表して葵が答える。
「だから、昨夜も相談して決めたじゃない。悠クンとエッチするのは自由って」
「それは……そう、だけど」
(中略)
 どうやらメイドがひとりずつ相手をする、というわけではなく、昨夜のように複数が同時に身を尽くすのが上流階級では当たり前のようだ。

 一般的には考えられないことだけど、ここではなんの問題もない。なぜか。それは上流階級だからです。二次元ドリーム文庫を読んでいる読者は、誰ひとりとして上流階級ではないから、知る由もないでしょうが、いいですか、心して聞いてくださいね、上流階級では、これが当たり前なのです。だからなにも憂うことはないし、なにも不自然ではないのです。あなたは、これを読んでいるときだけは、上流階級の、巨根の、そのうえ何度でも連発で射精することのできる、無敵の跡取り息子なのですから、ただひたすらその境遇を堪能すればそれでよいのです。よかったですね。本当によかったですね。
 そうなのだ。この小説は、そういう点で、なんだか本当によかった。肯定感がとにかく強いのだ。女の子はみんな自分のことが好きだし、張り合うこともしないし、勃起したら喜んでくれるし、射精したら美味しく飲んでくれる。男にとってこれ以上のしあわせって別にないよな、と思う。そういう意味で、これぞレーベル名である「二次元ドリーム」を、高い次元で描き出した一冊であると思う。これを成立させているのは、先ほども述べたように強い力である。この強い力は、エロ小説だけではなく、エロ漫画にAVなど、あらゆるエロ創作物に通底するものであり、湯川秀樹はたぶん見つけていないそれを、僕が発見したので、どうしたってそのうちノーベル賞を戴くことになると思う。よし、晩餐会で乱交だ! ただしジジイとババアばっかりだけどな!

2025/11/03

「ウェイトレスパニック」を読んで


 6冊目。2006年9月刊行。通し番号51。
 あらすじはこちら。

 いきなり喫茶店を任されてしまった誠は、四人のウェイトレスと開店準備を進めることに。勝気な元カノ、聡明な優等生、元気なロリっ娘、清楚な大和撫子……エプロンドレスの美少女たちによる秘密の接客サービスを、心ゆくまで堪能していく!!

 はっきり言って今作は、神楽陽子作品の中でだいぶ浮いている。あらすじを読んでもらえれば判るが、びっくりするくらい設定が薄い。これが本当に、架空の中世国家の戴冠式が、新女王と入れ替わった瓜二つの性奴隷のせいでめちゃくちゃになる物語と、同じ作家による同じレーベルの作品なのかと思う。
 しかも作者の持ち味である衣装に関しても、神楽陽子版ウェイトレスはどのような恰好なのかと言えば、アンナミラーズをもう少しだけ煽情的にした程度のエプロンドレスで、スクール水着やレオタード、あるいはバニーガールのような、肌に張りつくような素材は、今作に一切登場しない。
 そういう意味で、もはや浮いているというか、あまりにもエロ小説のただの上澄みすぎて、印象に残らないのだった。この著者の大抵の作品について、こんな話だったなあ、あそこがよかったなあ、みたいな記憶があるものだが、これについてはそういうものがまるでなかった。だから逆に新鮮に、初読のような気持ちで今回読んだ。
 読んだ結果、作品自体に対する薄さ、上澄み感について、特にイメージが覆される部分というのは特になかった。それでは設定がゴテゴテしていない分、気楽にさくっと読めるのかと言うと、実はそんなこともない。
 主人公は、都会で繁盛しているレストランの店主のひとり息子で、彼は両親と離れて、もともと両親が地元で営んでいた、いまは閉めてしまっている小さな喫茶店の店舗かつ実家で暮しているのだが、このたびそこを2号店としてオープンさせる運びとなり、ウェイトレスとして4人の美少女が押し掛けてくるのである。しかしその中に、飲食店の経営に通じている者はひとりもいない。本当に2号店のオープニングスタッフとして雇われた、単なる美少女たちなのだ。
 ところでエロ小説のジャンルと言うか、展開の種類のひとつに「孕ませ」というのがあって、僕はこれが苦手である。女性が妊娠することはもちろんとても喜ばしいことだが、自分の分身である主人公が、好き放題に射精することが許された、夢のように愉しいはずのエロ小説において、ひとたび妊娠が発生してしまうと、そこから先はもう好き放題じゃなくなって、その相手と入籍し、家庭を営まなければならないという責任が出てくる。それはすなわち現実である。エロ小説が見せてくれている夢から、途端に目が覚めてしまうのである。
 この作品は、もちろん「孕ませ」でこそないのだが、読んでいてそれと同じような焦燥を覚える。飲食店が、料理が得意な主人公(普通の大学生という設定で、調理師学校などには通っていないようである)と、かわいさだけが取り柄の美少女4人で、回るはずがないだろ、という現実ばかりが気になってしまい、夢が見られないのである。
 作品の大部分は、オープン準備期間の、主人公と女の子たちの出会いからハーレム形成まで(この間わずか数日)なのだが、物語のラストにおいて、店は無事にオープンする。

「いらっしゃいませ、アップルハートへようこそ!」
 アップルハート二号店は連日、大勢の客で賑わった。待望の二号店は一号店より規模は小さいながらも、ウェイトレスの可愛い制服と上品な格調、そして店長の手料理が好評を博し、確実に成長しつつある。
 しかし、誰も知らない店員だけの秘密があった。平日のランチタイムサービスを終えてようやく、カウンターの裏で一息つく誠だが。
 まだちらほらと客がいるにもかかわらず、ウェイトレスのひとりが頬を赤らめ、彼の逸物を夢中で頬張っている。
「んちゅぅ……誠、どぉ? んふ……きもち、ひい?」
「ああ、すげえ……いいぞ」

 一号店より規模が小さいながらも、連日大勢の客で賑わう店が、5人で回るはずがないのに、なんか回ってて、そして客の見えないカウンターの裏では、店長兼調理担当の主人公のぱぱぼとるを、ウェイトレスのひとりがフェラチオしているのである。
 なんかあまりにも現実離れしていて、じゃあスクール水着の上にトップスだけセーラーを羽織るという制服の学園に現実感があるのか、逆になんでそっちは許容できるんだよ、と問い詰められたら、あまり論理的な弁明はできないのだけど、しかしどうしてもエロ以外の部分に意識が流れてしまい、集中できないのだった。
 さらに言えば経営的な面以外でも、性行為は基本的に店舗スペースで繰り広げられるのだが、この際、客が使用するテーブルやソファーに、愛液から精液、挙句の果てには尿までもが撒き散らされ、ましてやそれを少女たちは当然ウェイトレスの制服のまま執り行なうので、回転ずし店の醤油ペロペロどころではない不衛生さも大いに気に掛かるのだった。

 「よし……いいぞ。はあ、こっち向いて」
 快楽電流がショートし、輸精管が再び決壊した。
 巨砲を宙にのたうたせ、白弾を撒き散らす。
 ビュルビュルビュル! ビュルビュルビュルビュル!
 明日からは客を迎える美貌をたっぷりと汚しておく。誠は口を広げて舌を垂らす彼女らの額や頬、鼻に亀頭を接触させて精を吐いた。締まりなく開いた唇にも注いで、悶える舌を白濁させる。
 四人のウェイトレスが牝の本性を剝き出しにして、恍惚の笑みを浮かべた。
「あはあ! 誠の、誠のスペルマぁ」
「熱ぅい……はあ、誠クぅン」
「ひあん、ミユキ、ベトベトになっひゃうぅ」
「あぁ、素敵ですわ……こんなに、たくさん……あはぁあ」
 射精は顔を汚すだけでは止まらず、ずらりと並ぶ乳塊にも、乳首から滴るくらいの牡汁をぶちまけた。
 ビュクビュクビュクッドプドプドプドプドプ!
 エプロンドレスの鮮やかだった林檎色が黒ずんで、絹地はねとつく。ドレスの胸元は肌との境界線がわからなくなるほど白濁にまみれ、奈緒や真理亜が手櫛を入れると、長い髪が蜘蛛の巣のように絡まって離れない。
 射精が終わる頃には、バケツでもひっくり返したかのように凄惨な状況だった。どこもかしこも精液だらけで、生臭い性臭と湯気がもうもうと辺りに蔓延する。
 
 この場面が、いつのことだと思いますか。
 正解は、オープン日の前夜なんですよ。開店前日に、主人公である店長はウェイトレスと店内を、精液まみれにするんですよ。完全に頭おかしいんですよ。
 エロ小説は、どこまでもシビアな現実から乖離して、夢のような世界を味わわせてくれる装置だが、しかしあまりにも現実から離れすぎてしまっていると、物語の中に没入するのが難しいし、その一方で今作のように、店舗運営を任されるという、半端に現実的な状況を与えらえると、「そんなんじゃ成立しねーよ」という否定が生じてしまう。エロ小説はこの塩梅がとても大事で、それの最適解、もとい安全牌こそが、学園ものということなのかな、と思う。性欲によってのみ立脚される、責任のない気楽な学生の物語が、結局いちばん心地いいってことなんだろう。なのでそれだけやってればいいよ、と言われると、やはりクリエイターとして抵抗したい気持ちというのがあり、それで神楽陽子はこれを書いたのかもしれない。失敗しているが。