8冊目。2008年11月刊行。通し番号は107で、いよいよ間が空いている。この期間、神楽陽子は二次元ドリームノベルスや二次元ゲームノベルスを精力的に発表しているのだが、著者がのちに執筆業を引退したことを考えるにつけ、この時期もっと文庫を中心に活動していてくれていれば、と悔しさが募る。もっともこれはあくまで文庫ファンの勝手な主張であり、ノベルスファンに聞かれたら怒られるんだろうとも思う。
それはさておき、あらすじはこちら。ちなみに今作に関しては、単行本の背表紙に記載されているものとホームページの作品紹介ページとで、なぜか微妙に文面が違う。
まずは単行本の背表紙のものから。
夏休みをリゾートホテル「ロイヤルハイツ」での住み込みバイトで過ごす良一。一緒に働くのは、憧れの同級生、ツンデレお嬢様などいずれも劣らぬ美少女達。バニースーツに身を包み、恋に鈍感な少年にセレブなご奉仕!
続いてこちらはホームページのもの。
夏休みをリゾートホテル「ロイヤルハイツ」での住み込みバイトで過ごす良一。一緒に働くのは、憧れの美少女、ツンデレお嬢様などいずれも劣らぬ美少女達。バニースーツに身を包み、恋に鈍感な少年に甘々ご奉仕! カジノで、厨房で、プールサイドで、豪華リゾートHを堪能しちゃえ!?
なんか微妙に推敲されている様子がある。たぶん単行本のものが後だろう。なるほど「美少女」よりも「同級生」のほうがいいな、と思う。なぜなら美少女は言うまでもないから無駄だ。あと「甘々」が「セレブな」になっているのも、ホームページのほうにしかない最後の一文の中にある「豪華リゾートH」という要素、この一文はおそらく単行本ではスペースの都合上削る必要があったのだが、それが伝える「今作は舞台がゴージャスである」という売りをなんとかコンパクトに伝えようとして、そうなったのだと思う。これは作家には関係のない編集者の手によるものに違いないが、二次元ドリーム文庫という媒体そのものの研究として、なかなか興味深い材料だと言えるかもしれない。
もっとも舞台が高級リゾートホテルであるというのは確かだし、そこでバニーガールの少女たちとめくるめく愛欲の日々を送るのも事実だが、セレブかと言えば決してそんなことはない。主人公は一般市民の少年で、叔母がオーナーをしている高級リゾートホテル内のカジノバーに、夏休みで住み込みのバイトに来ている身分である。
今作の女の子は4人で、うちふたりは少年の誘いを受けて同じくこのバイトにやってきた同級生と後輩。残りのふたりも同じ学校に通う少女だが、ひとりは本物のお嬢様、もうひとりはその世話係で、客としてこのホテルにやってきたという設定である。
主人公たちがバイトをすることになった理由について、「人手が足りなくなったので駆り出された」という説明がなされているが、物語を読む限り、カジノバーに少年たち以外の従業員の影は一切ない。オーナーである叔母も登場人物としては出てこない。それじゃあ店は回らないよ! と、「ウェイトレスパニック」の際にも抱いた思いは、今作でも当然わき上がる。しかも今回は高級ホテル内にあるカジノバーである。それをバイトの高校生5人で切り盛りするのである。なんと豪快な設定であろうか。
ちなみに5人でバイトというのはどういうことかと言うと、本来は高級ホテルの宿泊者であったお嬢様は、初日にカジノで大負けしたため(世話係の少女による策略なのだが)、親に伝えていた旅行の日程の期間、住み込みでの勤労を余儀なくされたのだった。これについて、もとから働いていた少女のひとりのセリフで、「助かるわ~。ローテンション組めなくって、困ってたとこなのよ」というのがあるのだが、だとすればそれまでは3人でやっていたということになる。さすがにそれはあんまりではないか、とも思う。
斯様に、設定に関してはちょっと強引な部分があるのは否めないのだが、その代わり、今作は女の子たちの衣装について、とても誠実な理由付けがなされており、この一点によって、その周辺にある多少の粗などはカバーされていると言っていいだろう。すなわち、女の子たちは朝から晩まで、バーにおける女性用制服であるバニーガール姿なのだが、それはなぜかと言えば、物語序盤、みんなでお風呂に入っている際、脱衣所が荒らされ、少女たちの衣服はすべて持っていかれてしまい、さらには部屋にも侵入され、そして同じく4人ともの衣類という衣類が盗まれてしまったからなのだ。つまり、制服であるバニースーツ以外に、着るものがなんにもない状態になってしまったのである。かわいそう! 女の子たちは本当にかわいそうだし、朝から晩までバニーガール姿でいるのも、それじゃあぜんぜんしょうがないな、と思う。ホテルで窃盗があったのだからもっと大ごとだろ、そして無人島じゃあるまいし、なんかしらのそれ以外の着るものがあるだろ、少なくともホテル側が用意してくれるだろ、などという指摘はまったくの的外れだ。なんかもう本当に、「バニースーツしかない」状況なのだ。あなたは人生で、着るものが「バニースーツしかない」状況になったことがありますか。ないでしょう。そんな経験のないあなたが、どうして「バニースーツしかない」状況など起り得ないと断言できるのですか。今作では現にそれが起り、少女たちは惑いつつも、それでも気丈に、バニーガール姿で日々を送ることにするのです。なんとけなげなのか。
起き上がった良一は彼女の立ち姿を見上げて、目を見張り、頭を覚醒させた。ウサギの耳と際どいボディスーツ。環希は朝から、豊満な肉体をバニーガールに変身させていたのだ。たわわな乳果肉は、前のめりになるだけで谷間を寄せ、心もとないバストカップから丸ごと零れ落ちそうになる。エナメルの黒い光沢が艶めかしい。
混乱状態の良一はぱくぱくと口を開閉させた。
「そっそれ、な……なんで?」
「だって、他に服ないんだから仕方ないじゃない。これなら替えも山ほどあるし」
迅速に用意できる普段着はない。しかしだからといって、まさかバニースーツを選ぶとは思わなかった。朝一番にフルハウスから取ってきたようだ。
「ディーラーの制服がよかったんだけど。良一ひとり分しかないんだもの」
股間を隠すというよりは、むしろ少年の視線を釘付けにするハイレグカットに、肉感的な太腿を窮屈に通し、あまった布をお腹に貼りつかせるのみ。背面に生地はない。
網タイツが伸びやかな脚線を妖艶なものに変える。
髪質が細く風に翻弄されやすいストレートヘアを、後ろにまとめ直し、環はウサギの耳を整えた。強気な双眸は眉をやや八に寄せ、頬も赤く色づいている。
そうなのだ。主人公の少年の制服であるシャツとスラックスは、彼ひとり分しかないのだ。替えは一切ないのだ。だけどバニースーツなら山ほどあるのだ。だから仕方ないじゃない。またそれは店舗でだけ着ければいいんじゃないかと思いがちなウサギの耳であるが、しかしそれは想像力や共感性の足りない考えで、少女たちの気持ちになって考えれば、心もとない恰好で過さねばならない不安感を少しでも和らげるため、ウサ耳カチューシャ程度の小さな布にさえ縋らなければならないのだ、ということが察せられると思う。そういう女の子の心情を理解せずにエロ小説を読んでも、本当の情趣というのは決して得られない。
そして仕方なくとは言え、結果的に女の子たちが常時バニーガール姿なので、主人公である良一はどうしたってずっと欲情し続けることになる。さらには女の子たちもまた、あられもない恰好を、以前から憎からず思っていた少年に対して晒しているという刺激から、欲情はいや高まる。そんな男女の欲情は両輪となり、機関車を暴走させる。これこそが副題にある「ばにばにパニック」であろう。ちなみに本編にもちろんワニは出てこない。出てくるのはバニーガールだけである。ワニが出てきらワニワニパニックだったろうが、バニーガールなのでばにばにパニックである。どこまでも理屈が通っている。
物語の終盤で、少女たちの持ち物を盗んだ犯人は警察に捕まり、衣類は戻ってくる。しかしその時点ではもう少年の争奪戦の様相を呈しているので、誰もバニースーツを脱ごうとはしない。本当に、最初は客として店にやってきたお嬢様と世話係の、カジノで大負けしてバニーガールになるまでのわずかな場面を除き、4人の少女は物語の中でバニースーツをいちども脱がないのだった。これは少年と性行為をする際も徹底していて、すべての挿入は股布をずらす形で行なわれる。ショーツや水着に較べ、バニースーツの生地はだいぶ硬いようなイメージがあり(実物に触れたことはないが)、大丈夫だろうかと思わなくもないが、少年少女は純粋に気持ちよさそうなので、ならば問題ないのだろう。
思えば神楽陽子作品において、少なくともここまで読んできた8作の中で、女の子が全裸になったことは、ただのいちどもないのではないか。著者の着衣に対する並々ならぬこだわりに、改めて敬服する思いだ。
今作はバニーガールということで、エンディング近く、女の子全員と一斉に行為をする、すなわち箍が外れた場面において、ぱぱぼとるに関し、いよいよこういう表現が現われる。
ずるりと包皮を破って、赤剥けた雁首が伸びる。ピンポン大に膨らむ頭頂が、半円の傘を広げ、鈴口からカウパー腺液を無限に滲ませる。
汗かく肉体は発熱し、心臓は胸と背中を交互に打つかのようだった。「人参」の比喩に恥じない硬さでいきり勃ち、真上の肉花弁に近づこうとする。
「環希ちゃん! ボクっはあ、もうガマンできないよ! ボクのニンジン!」
騎乗位の姿勢で大胆な開脚を披露するバニーガールは、自ら双尻を撫で下ろし、強直を両手で垂直に支えた。もう隠すものはない彼女の独白が、排精欲を猛烈にそそる。
「あたしね、はぁ、ホントは仕事中に何回も、イきそうになって……」
「そんなにボクの、はあ、ニンジン食べたかったの?」
肉唇を大輪に綻ばせたピンク色の入り口は、愛蜜を涎のごとく垂らして、ひくつくのを繰り返していた。膨縮のたびに吐息のような温かい淫気を放ち、敏感な亀頭を包む。光を通さない肉穴の奥では、快楽が密かに待ち構えているはず。
「もう……い、いいでしょ? 良一、あたしが……ニンジン食べても」
ウサギに与えるからニンジンというのは、もう完全におっさんの発想である。でもそういうのがいちばんいいな、そういうのがこの世でいちばんしあわせな喩えだよな、としみじみと思う。我が家の坪倉みたいな感じ。あんなんがいちばん「あはは」と軽やかに笑える。
そんな感じで、二次元ドリーム文庫、1年以上のインターバルを置いて上梓された今作は、満を持してという言葉にふさわしい、著者のこだわりがハイレベルで結実した、見事な1冊だったと思う。バニースーツという、一般人にはあまり馴染みのない題材も、ここまでバニースーツしかない環境をお膳立てされ、最初から最後までその恰好を通されては、もはや目覚めるほかないだろう、という力業で、愉しめたように思う。やっぱりすごい。
と、作品に関するレビューはここまでで、このブログを読んでくれている人に報告がある。
今年の夏から始まった「CRITIQUE OF PURE REASON」、突然だが、今回が最終回である。この半年間、神楽陽子による二次元ドリーム文庫作品のレビューを綴るために作られ、今後の新たな展開も構想されていたこのブログだったが、このたびその役割を終え、幕を閉じる運びとなった。ブログというのは、あるとき明確にその役割を終えるのだ。ブログって、そうなのだ。ブログってほら、例のあれと例のあれを、繰り返すものですからね。次の展開をお愉しみに!